テレビ『怖いけどタメになる話(2024年1月14日放送)テレ朝』 (著者監修)
[人物]音大に通う渚が主人公で、ピアノコンクールにエントリーするところから物語は始まります。課題曲は「シューマン:ピアノソナタ2番第一楽章」。あまり裕福ではない渚はピアノ練習に加え、テレオペのバイトをこなしており、常に体の正面にパソコン、カスタマーサービスのメモを取る際は常に左手に置いたメモ帳に記載しており、体は正面、首だけ左斜め向きという無理な姿勢を毎日、続けていました。また、癖で誰かと話をする時はいつも左顎と首の間にスマホ挟んでいました。そのため、いつも左肩から首を中心とした緊張型頭痛を自覚はしていたのですが・・・。
[頭痛のエピソード]「続いて天気予報です。明日は全国的に雨が降るでしょう」とTVニュース、その瞬間、まるで電気が走ったような経験した事のないピリピリとした頭の痛みを感じました。
[推定診断とその根拠]翌日に頭痛専門医を受診すると診断は「後頭神経痛」というものでした。
[予防とケア]首の筋肉が後頭部の神経を圧迫し発症する神経痛でストレスも大きな要因の1つ。また雨の日の前日に発症しやすいのも特徴。よく首のマッサージをして、特効薬であるカルバマゼピン服用でその後、後頭神経痛はピタッと治まりました
しかし、その数日後、ピアノ練習をしていると「音が半音下がって聞こえてしまう」という奇妙な現象に驚いてしまいます。親友の里香にピアノを聞いてもらっても全くミスもなければ音程もOK。代わりに里香に「猫ふんじゃった」を弾いてもらうと、渚には半音下がって聞こえてしまう!
これでは練習にならない、どうしよう・・・と焦っているところに、いつも意地悪をする渚のところへライバルである香澄が来て、服用している薬を出すように言われる。その薬を見て、突然、香澄は薬をグジャグジャにしてしまい飲めないようにするのでした。それに加えて。「3日後のコンクール、私の邪魔だけはしないでよね!」と捨て台詞をはいて去ってしまう。
3日後のコンクール本番当日、香澄の演奏が終わり、渚の順番が回ってきます。薬も服用できず、この3日間、怖くてピアノ連取もできなかった渚は半ば諦めて課題曲を弾き始めます。すると、音が下がって聞こえない、ちゃんと聞こえる!
コンクール優勝は渚となりました。そこに寄って来る香澄。
「なんで、薬を飲めないようにしちゃったの?、一時はどうしようかと思ったのよ、香澄」
「私たちのような絶対音感の持ち主は、あの薬は飲んではダメなのよ!」
「えっ。でも、なんで香澄は薬の副作用の事知っていたの?」
「…渚が飲んだ薬…ネットで調べたら、音感の鋭い人は半音下がって聞こえる副作用があるって書いてあったの。…だから病院の先生に確かめに行ったの。やはり、渚とは正々堂々と勝負したかったら・・・。やっぱり、渚には負けちゃったわ」
というストーリーです。
これは後頭神経痛というよりも、治療薬として我々専門医が使用するカルバマゼピンというやくざのごくまれな副作用で「(絶対音感の持ち主や音感の鋭い方のみ)音が半音下がって聞こえる」というものをテーマとしたストーリーです。カルバマゼピンが特別な薬剤ではなく、他にも「半音下がって聞こえる」副作用は
※後頭神経痛とは、「スマホ首」やテレワークが増えたことが大きな一因と考えられる後頭神経痛は、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛の三大頭痛に加えて、第4の頭痛として注目されています。後頭神経痛は頭痛というよりも末梢神経ダメージの神経痛の一つで、大後頭神経痛、小後頭神経痛、大耳介神経痛の3種類があります。それぞれ痛む場所が違うだけで、痛みの質や程度は同様です。
特徴としては、
①片側の首(両側面同時には起きません)から後頭部・頭頂部にかけてのチクチク、ズキズキとした一瞬の激痛
②ビリッと一瞬電気が走るような痛みを繰り返しますが、痛みがないときはスッキリしています。
③神経痛は一度起きてしまうと、数日から数週間続いてしまいます。
④一度起こると、急激な首の前・後屈や回旋で神経痛が起きてしまいます。
⑤ヘアブラシで髪を溶かした時や神経痛がひどい時は頭皮に触れただけで痛むことがあります。痛みの強い方は、皮膚表面の神経痛のため、枕に後頭部が触れるだけで辛く不眠に悩まされることもあります。
⑥雨の日の前日に多いのも特徴です。そして、雨が降ると治ってしまいます。
大後頭神経、小後頭神経、大耳介神経の3つは、いずれも頭を支える頚部の筋肉の間から皮膚の表面側に出ているため、筋肉による圧迫を受けやすいと考えられています。そのため、テレワークによる猫背の姿勢(これはテレワークに限ったことではなく、加齢に伴う背骨の変形、高校生や大学生などスマホ大好きな人、PSなどゲーム系が大好きお子さんと、どの世代にも起きます)やスマホ首をはじめとする頸椎の変形、精神的なストレス、急激に首を動かした時、気圧の変化(特に雨の前日)などが神経痛の誘因になります。元々、首コリや肩コリが強い人はこの神経痛を起こしやすい傾向にあります。
後頭神経痛が起こる一番の理由は、姿勢の悪さです。現代人はデスクワークが多くパソコンを頻用しますが、実はモニターを真正面からではなく、左右どちらかの前方に置いている人が多いのです。そのような方に良く見られるのが、モニターを見るときに体は正面を向いて首だけ捻るといった、ゆがんだ姿勢です。これだと、顔を向けている側の後頭神経は頭蓋骨と頸椎に挟まれ、反対側の後頭神経は引っ張られてしまい、どちらの場合も神経が興奮してしまいます。挟まれた側が痛む人も、引っ張られた側が痛む人もいますが、片側だけ痛む人が多いようです。
後頭神経痛は強い痛み、神経痛の割には危険なものではなく、1週間ほどで自然に治ることが多い神経痛です。特に多いのは大後頭神経痛で、片頭痛特有のズキズキする感じでもなく、緊張性頭痛(コリ頭痛)特有の鉢巻きをした様に頭が締めつけられるような圧迫感でもない、片側の耳の後ろが痛くなることから始まり、痛む所が日によって違う。さらに痛みが鉢巻きの様な横方向ではなく、後頭部から頭のてっぺん、前頭部へと縦に動く頭痛が「大後頭神経痛」です。
治療はまずは痛み・神経痛の元を短時間、冷やしてみるか冷湿布を貼ってみましょう。長時間は筋肉のコリに繋がってしまうのでNGです。痛みはピリッから激痛までありますが一瞬ですし、神経痛ですから通常の消炎鎮痛薬は全く効きません。週に2〜3回以上の大後頭神経痛が起こるようになれば、大後頭神経は三叉神経と連絡(リンク)するため、三叉神経痛の特効薬であるカルバマゼピン(テグレトール®)が有効です。消炎鎮痛薬が全く効かない方もカルバマゼピンを夜1 錠飲むだけで、翌朝から楽になることが多々あります。
カルバマゼピンが効かない場合は、神経痛の根元に神経ブロックを1回/週程度のペースで数回施行すると大多数の方は良くなります。
専門家を受診することをお勧めしますが、近隣に専門医を見つけられない時は、最も痛みを感じる部位もしくは神経痛の根元を強めに5秒ほど押して離す、を数回繰り返すと、神経の興奮が抑えられて痛みが和らぎます。